土という素材を使い
いかに面白く
いかに美しく
いかに新たな表情を探し出せるか……
焼く前は水にも溶けるただのもろい土だったものが、窯の中で金属も溶けてしまう1250度以上の熱に耐えて出てきたそれは、もう土ではなくなり硬質で全く別のものへと変化します。
それには土の内側からの果てしないエネルギーを私は強く感じます。
まさに制作していたものが一度自分の手を離れ、炎に委ね、土という素材自体が化ける。これは漆や金属などの他の工芸分野とも異なり、さらに絵画や彫刻ではあり得ないことです。
むしろ絵画の方に、陶芸は自分の手を離れて完全には予期出来ない別物になってしまうのはコンセプトから外れてしまうと言われたことがあります。
ですが、私はこの陶芸における「焼成」というものが、自分だけの力や考えられる範疇だけではなく、さらに大きな力をもらい作品へと昇華させていくようで、とても面白いと感じています。
私は、表現において、“現象”に対する興味がいつも根底にあります。
現象とは、素材が自分の手を離れて起こる予期しない表情が生まれる偶然性と、自らの手で起こさせる必然性があります。
自分の予期しない、予期できない新しい表情を求めて、常に土で実験を繰り返し、表情を探る偶然性。
それをコントロールし、作品にしていく必然性。
この掛け合わせを主軸に作品を作っています。
例えば、黒い土に粒状の金の結晶が現われる「黒金彩粒結晶」は、成形時は全く最終的な焼き上がりがわかりません。焼成により初めて反応して、粒状の金色の結晶となって現われます。それは一点一点、異なる表情を見せてくれますが焼くまではどう出るかわからず、しかしどういった結晶が出るのか、どれくらい出すのか、実験を繰り返しコントロールして作品へと転換していきます。
「滲透彩磁」も「線滲み染め青釉彩」も同じく、本焼きして初めて色を呈します。
「滲透彩磁」「線滲み染め青釉彩」「黒金彩粒結晶」は私が技法自体をオリジナルで制作したものになります。
陶芸の歴史は古く、その表現方法は数多に広がっています。
その中で、まだ見た事のない前沢幸恵の作家独自の素材表現を求めて、日々制作しています。
技法について
滲透彩磁[磁器]
器の中と外の模様は、一対で全く同じになっています。
これは外側の模様が器を透過し、内側に全く同じ模様を浮かびあがらせています。
滲み出した淡いグラデーションを持った模様は、絵の具では表現できない独特の表情となります。
線滲み染め青釉彩[磁器]
一本一本の青く滲んだ線が、釉薬全体を青く染めています。
じっくり流れ落ちるようにゆっくり焼成することにより、下に流れ落ちて溜まった釉薬はより濃く青みがかっていきます。
釉薬の濃さ・温度・焼成時間で一点一点流れ落ちる釉薬の表情は変わっていきます。
黒金彩粒結晶[陶器]
黒い土に金色の粒状の結晶が斑点のように出ています。
これは土の中の成分と釉薬が焼成により反応して、粒状の金色の結晶となって現われます。
焼くまではどう出るか分からず、しかし浮かび上がるように現れるそれは一点一点、異なる表情を見せてくれます。
薄氷裂貫入[陶器]
氷が割れたように幾層にも重なって複雑な貫入が入る釉薬です。
貫入釉として知られています。
尚且つ、透明な貫入釉が焼成により生地からの影響を受けて青く染まり、更に複雑な貫入による色味の重なりをしています。
粉引[陶器]
粉引は古くからある技法の一つです。白化粧と呼ばれる白い細かな土を泥漿にして、赤土の上にかけ焼成すると、生地の赤土の鉄分が上にかけた白い泥漿を通して浮かび上がり、ただの白ではなく、生地と混ざり合った複雑な色味へと変化します。
生地の赤土と掛け合わせる白化粧土の配合、焼成の仕方で一口に粉引と言ってもその色味や表情は無限となります。
私はこの白化粧土を単一で一つの作品にかけるのではなく、様々な化粧土を一つの作品に掛け分けて、同じ白色と分類される白化粧でも複雑な色味や表情の幅を持たせた粉引の作品を制作しています。